放課後の魔術師1 オーバーライト・ラヴ

北凰学園2年生の播機遥は、新学期の桜の下で転校生らしき男子、秋津安芸と出会う。
遥はどこか超然とした安芸に惹かれたが、安芸は同じ17歳ながら遥のクラスの担任として赴任してきた教師だった。
しかも安芸は論理魔術師という人とは違う存在で、遥は彼らの戦いに巻き込まれてしまう。

安芸が遥に対してホームズっぽいやりとりする導入部で、ついミステリーかと思って読んでしまったけど、直球のアクション小説だった。
論理魔術師なんて癖のある単語を使うから、ジョジョ奈須きのこ的な世界感と思いきゃ、力対力のバトルものだし、意味ありげなエピグラフじみた章立ても、クライマックスで少し驚いたものの、よく読めば、あの一章だけで他は関係ない事に気付いて、少し拍子抜けした。
でも安芸と遥の掛け合いのような台詞回しはリズムがよくて好き。
どうしても長谷敏司円環少女を思い起こしてしまうのは仕方がないか。

フリーター、家を買う。

フリーター、家を買う。

フリーター、家を買う。

武誠治は就職した会社に馴染めず、三ヶ月で辞表を提出、いつのまにか引きこもりに近いフリーターとして過ごしていた。
ある日、母親が部屋まで持って来てくれるはずの食事がインスタントのカップ麺になった事に腹を立て、居間に降りると嫁いだ姉の亜矢子が待っていて衝撃の事実を告げる。なんと母親の寿美子が心を患い、重度の精神病に掛かっていたのだ。
亜矢子は不甲斐ない誠治と父、誠一を罵倒し、何故寿美子が精神病に掛かったのかを説明した。
誠一の酒癖の悪さが近所に広まり、武家は町内で村八分どころか、虐めの対象となっていたのだ。
何も気付いていなかった誠治は自らを恥じ、一念発起し、母親のために働く事を決意する。

軽く読み始めたら、いきなり重たいテーマで少々焦った。
でも引きこもりが前向きになるとしたら、これぐらいの状況じゃないと無理かなと、変に納得した。
中盤からは面接マニュアルが続き、後半は有川節ともいえるラブコメに突入と、かなりお腹一杯になる作品。

きちんとした就職活動をした経験がないから、この面接マニュアルは勉強になった気がする。

H+P−ひめぱら−④

H+P(4)  ―ひめぱら― (富士見ファンタジア文庫)

H+P(4) ―ひめぱら― (富士見ファンタジア文庫)

現代から異世界のトレクワーズ王国に召喚され、王国の為に5人の王女とお世継ぎを作らなければいけなくなった高校生、神来恭太郎。
後宮教育係ピコルの無茶振りで始まる同衾作戦があったり、レイシアと初デートしたり、トビカピバラのアレスタ救出の為に王女達の下着に隠された鍵を取り戻したり、エリスがつけた魔法のリップスティックでキスをしたくなったりと、メインストーリーは動かない番外編。

エロ部分、少なめ!
どんな展開でエロを絡めて来るんだろうと期待していたら、ほんわか話でまとまってた。

前巻が先走りすぎただけなのか。ちと残念。

プリンセス・トヨトミ

プリンセス・トヨトミ

プリンセス・トヨトミ

会計検査院第六局副長の松平一は、大阪出張の新幹線車中で部下の鳥居から子供の頃に富士山の麓で巨大な十字架が連なっている風景を見たと話される。松平も幼少の頃、夜中に赤く燃える大阪城と大通りを埋め尽くす大人達の行軍を見た事があり、翌朝家族に話すと誰も取り合ってくれなかった記憶があった。府庁の検査が終わった後、松平は部下の鳥居と旭に社団法人OJOの検査を指示するが連絡したはずのOJOは不在、数日後松平が一人で向かったOJOには予期しない人物が待っていた。
一方、大阪の空堀中学に通う真田大輔は幼なじみの橋場茶子と榎木大明神に最後のお願いをしていた。
大輔は幼い頃から願っていた女の子になりたいという願いを止める事にしたからだ。大輔は女の子として生きるためにセーラー服を来て中学に通う事に決めたのだった。自分の思うように生きようと決めた大輔だったが、不良でヤクザの息子蜂須賀に目をつけられてしまう。ボロボロにされた大輔を見た茶子は蜂須賀の組事務所に殴り込みに向かう。

これから驚天動地の話(言い過ぎ?)が待ってる訳だけど、インパクトがある割りに、最後が尻すぼみというか。
会計検査院とOJOの対決をもっと鮮明にしてくれた方がラストは盛り上がった気がするな。たぶん鳥居が最後で活躍しなかったのが心残りなのかも。鳥居絡みの伏線はすべて置き去りになってるしなぁ。十字架とかインクの嗅ぎ分けとか。

空ろの箱と零のマリア2

空ろの箱と零のマリア〈2〉 (電撃文庫)

空ろの箱と零のマリア〈2〉 (電撃文庫)

「拒絶する教室」から抜け出して数日、星野一樹は音無麻里亜となったマリアやクラスメイト達と平穏な日常を過ごしていた。
ある朝、一樹は麻里亜から昨晩の電話による告白は何だったのか問い詰められる。覚えのない一樹は自分の携帯に見覚えのない発信履歴を見つけ、愕然とする。
見覚えのない発信は麻里亜だけでなく幼なじみの桐野心音にもかけられ、なんと一樹は心音にも告白をしたというのだ。
心音へ弁解しようとする一樹だったが急に記憶をなくし、起きた時には友人の大嶺醍哉から殴られていた。記憶を無くしている間に勝手な行動をする自分にクラスメートは次々に避けるようになる。
この状況を麻里亜は新たな「箱」に引き起こされたとものだと推測、そして嘲笑うかのように携帯には自らの声で星野一樹を壊すというメッセージが録音されていたのだった。新たな箱「泥の中の一週間」に一樹は為す術もなく翻弄されていき、麻里亜にさえ心を閉じていくようになる。

前半は傑作。この設定をありがちと見ることもできるだろうけど、前作を踏まえてこの状況を演出したなら、なかなか凄いと思う。

次々に孤立していく主人公、頼りにしていたヒロインからは泥の中の一週間を抜け出したとしても、以前の日常には戻れず、クラスからは村八分にされたままだろうと告げられる。
なんてマゾっ気の溢れた展開なんだろうか。
前作の奇跡が奇跡に過ぎない事を強調して語られる流れに、ほんとドキドキしながら読んでいたんだけど、一樹が自分を取り戻してからは、急にトーンダウン。

敵がちょっとしょぼくなり過ぎて、釣り合いが取れなくなったのもあるけど、こんなに愛があれば大丈夫と語られると、違うよなぁと思ってしまう。
いつのまにか日常も取り戻して、丸く治まってるし。

でも前半の設定と展開は好きなんで、次も読むことにする。

Another

Another

Another

気胸の療養をかねて東京から母の祖父母が住む夜見山に転校してきた榊原恒一は、着いた早々病気のせいで、しばらく入院することになる。
なぜか入院中に転入する予定の夜見山中学のクラス委員が見舞いにきてくれたが、以前この町に住んだ事があるかなど奇妙な質問ばかりして帰っていった。
ある日、恒一は病院地下の霊安室に向かう少女を見かける。少女が見舞いに来てくれたクラス委員と同じ制服だと気付き声をかけると、彼女は可哀相な半身に届けものがあると、謎めいた言葉を残し地下に下りていった。
ゴールデンウィーク明けに初めての登校する事になった恒一はクラスにあの少女がいる事を知る。彼女の名前は見崎鳴。なぜか古びた机に座り、クラスメイトどころか教師でさえ、彼女の事がまるで見えてないかのように授業をしていた。
この不思議な状況をクラスメイトは口を濁すか、6月まで待ってほしいと恒一に言うのだが、6月になる前に見舞いにも来てくれたクラス委員の女子が恒一の目の前で事故にあって死んでしまうと、教えてくれると言ってたクラスメイトまで口を閉ざした。
恒一は当事者である見崎の後を追い、奇妙な人形店に入る。そこで見崎から『3年3組の呪い』の話を聞くのだった。

ダリオ・アルジェント楳図かずおを足して二で割らずに掛けてしまうのが、綾辻行人の真骨頂なんだろうな。ほんと分厚い。
とはいえ長大な話にもかかわらずサクサク読めて、ちゃんと驚かしてくれる。
読み終えて、心を揺さぶる何かはなくても、嫌な景色を見せてもらえた満足感はある。
綾辻行人の作品が好きなら迷わずオススメ。

でもあまりにひぐらしが鳴く頃にを彷彿とさせる展開に最初は戸惑ってしまった。

マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン

マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン

マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン

昭和二十年。子爵五条辻政孝の長女咲智子は父から頼まれたやんごとなきかたの文書が納められた箱を浜松へ届けるため上野駅に着いたが、アメリカの兵士に見つかり攫われそうになる。そこを通りがかった男がすんでのところで咲智子を助け、逃げだした。男の名は堀田勘一。古本屋「東亰バンドワゴン」の一人息子だった。勘一とサチの出会いを描く東京バンドワゴン番外編。

勘一とサチの話が気になっていたので、これはうれしい番外編。
とはいえ読者サービスだけの番外編という訳でもなく謎めいた堀田家の姿が次々に明らかになり、結構驚かされる。終戦直後という舞台もカオスめいた堀田家にちょうどいい具合。
それにしても堀田家は無敵すぎるなぁ。
あとブアイソーが何者か気になる。