螻蛄

螻蛄

螻蛄

工事現場でのヤクザ絡みの仲介を専門にする建設コンサルタントの二宮は腐れ縁で疫病神と罵る二蝶会の幹部桑原から二千万の約束手形の取り立てに絡むシノギを手伝わさせられる。約束手形は日本でも有数の巨大宗派・伝法宗の寺院の中でも格式のある就教寺の住職が振り出したもので、桑原は約束手形の裏事情を嗅ぎ取り、その原因となった伝法宗の寺宝「懐海聖人絵伝」という重要文化財級の絵巻物を手に入れようとしていた。ヘタレだが金に意地汚い二宮は嫌々ながらも桑原と行動をともにする。二千万のシノギは伝法宗の内輪揉めや東京のヤクザ勢羽組も絡み東京、名古屋、大阪と二人は東奔西走することになる。

疫病神シリーズの最新巻。
宗教を題材にしてるのに、教義そっちのけに現世利益のあれこれしか書かないのが黒川博行らしい。欲や弱さといった人間の駄目な部分を軸にしてるのに湿らないのは、作者が求めるエンターテイメントがどこまでも前向きなせいかも知れない。
黒川作品を読むと、転んでもただでは起きないのが人間の本質だといつも気付かせてくれる。

C3‐シーキューブⅣ

C3―シーキューブ〈4〉 (電撃文庫)

C3―シーキューブ〈4〉 (電撃文庫)

学校帰りのフィアと春亮が出会った少女、楯岡藍子。彼女も人型になった“禍具”だった。春亮はいつものように藍子を夜知家に迎え入れる。藍子は禍具である事に極度の罪悪感を抱いていた。藍子の気晴らしにピクニックに行った夜知家にビブオーリオ家族会の二階堂クルリとアビスが襲い掛かる。何とか撃退したもののアビスの能力で春亮の禍具に関する記憶が失われてしまい、藍子までが家族会に入る事になってしまった。フィア達は春亮の記憶を取り戻す為に体育祭で家族会と決着の時を迎える。

ビブオーリオ家族会編、決着。
新しい“禍具”楯岡藍子の呪いは、呪われている自分を呪うという自家中毒のようなもので、このシリーズのテーマの一つになるのだろうとは思う。藍子の場合は、保留といったような解決になったけど、これからどう発展させるかが鍵になってくる気はする。
もう一つのテーマというか本筋になるだろうちょいエロは少し押さえ気味。毎巻ごとのエンディングのバカ加減が好きなんだけどなぁ。

“文学少女”と神に臨む作家

文学少女天野遠子の卒業が近づき、心葉はたどたどしいながらもななせと二人の日々を過ごしていた。しかし、遠子の下宿先の息子桜井流人からたびたび二人の仲を邪魔される。ある日、心葉が井上ミウとして小説を書いた時の担当編集者佐々木が現れ、次の作品を書いてほしいと頼まれる。即座に断る心葉だったが、その晩、遠子が佐々木と関わっている事を知り、裏切られた忿懣を遠子にぶつける。その事を知った流人に心葉は天野遠子の存在を消すつもりなのかと詰られる。巻き込まれながら遠子の死んだ両親、編集者の文陽と結衣そして流人の母であり作家の桜井叶子のいびつな関係を知ってしまう。アンドレ・ジッドの「狭き門」を下敷きに天上を目指す作家の業と、はかないながらも刻み込む青春の影を描いた文学少女シリーズの堂々たる完結編。


ジッドの狭き門を読んだのは確か中学三年の頃。新潮文庫の夏の百冊を読み切ろうとして読んだと思う。
なぜかジェロームじゃなく、アリサに感情移入をしながら読んだ気がする。たぶんストイックなところが中学生男子には格好良かったんだろう。なんて浅はかな思春期。
面白かった記憶はあるが、再読しようとは思わなかった。いくらアリサが格好は良くてもあのラストはやはり重苦しい。
というわけで狭き門を下敷きに完結編を書くことがわかってから、ラストはハッピーエンドにはならないだろうと予想していた。このシリーズは心葉の三角関係とディスコミニケーションの物語だと思っていたからだ。
まさか作家の業を描いてくるとは思いもしなかった。天才と孤独の物語。そうか、狭き門をその下敷きにするとは凄いなと驚いた。頭に浮かんだのは羽海野チカ3月のライオンだった。
心葉と3月のライオンの主人公である零がダブった。でも遠子は3月のライオンの中にいない。
孤独であるが故に全てを許すという存在は、現実では禁じ手だろう。
だからこそ、妖怪なのかと解釈してみた。
凡人が天才を解釈するための妖怪「文学少女」。
個人的には腑に落ちるんだけどなぁ。

太陽を曳く馬

太陽を曳く馬〈上〉

太陽を曳く馬〈上〉

太陽を曳く馬〈下〉

太陽を曳く馬〈下〉

警視庁捜査一課の刑事、合田雄一郎は、曹洞宗永劫寺サンガの僧侶、末永和哉の交通事故の過失責任を調査する事になった。合田は告訴人の弁護士久米と会い、告訴状に添付されていた永劫寺サンガの発起人である福澤彰閑が息子秋道に宛てた手紙について質問すると、福澤秋道の死刑が執行されたことを聞かされる。合田は3年前に秋道が行った殺人事件を捜査し送検していたのだ。彰閑からの手紙は絵を書くのに邪魔だから殺したとされる秋道へ宛てた感想とも思弁とも言えない奇妙な文章群だった。合田は世間一般では動機なき殺人として落着した秋道事件を回想しながら、元オウム信者であり、てんかん患者だった末永和哉を巡る〈私〉と自由な意思を探る対話と思索に自ら巻き込まれていくのだった。


久しぶりに評価なし。
読んだというか、読まされたというか。
最低でも仏教の基礎知識と道元正法眼蔵の読み込みが必要。あとマークスの山以降の高村作品(とくに晴子情歌以降は必須)。
できるならラカンのエクリや川村記念美術館にあるバーネット・ニューマンの「アンナの光」、デュシャン以降の現代美術の流れを押さえていると取っ付きやすいかも。
無手で読み出すと途中で自分の知識の無さに苛々してくること請け合い。

いやぁ、ほんと読み難かった。
でもつまらない訳じゃない。知的好奇心はガンガン刺激されるし、悶え苦しむ合田雄一郎はなかなか萌える。
ただ途中から小説ではどんどん無くなっていく。合田や福澤といった登場人物はいるけど、盤上の駒としか存在しなくなって、残るのは形而上の思弁のみ。
リア王では福澤栄の人生があったおかげで、かろうじて小説として形は残ったけど、今回はそれすらもない。
ただただ圧倒的な言葉の羅列。
羅列から何かを拾い自らの言葉に仕立てあげるか、何も拾わず自ら発する言葉に従うか。
読み手にはそれぐらいしかする事ができない。

善くも悪くも貴重な読書体験ではありました。

いぬかみっ!12

スイスにいるいまり、さよかの双子の犬神から助けてほしいと連絡を受けた啓太。すぐにも救援に向かう為に魔導士赤道斎に頼るが、出された道具はアヒル型のおまるだった。一方仮名史郎は所属する鎮霊局の局長から赤道斎と大妖狐の更正状態を確認したいと連絡が入る。慌てる史郎は啓太に相談するが、すでにスイスに旅だっていた。仕方なくその場にいたようこと新堂ケイに二人の代役を頼む事になる。

犬神使い啓太を堪能できるクライマックス承前。

ヒーローの物語なんだと改めて確認。
男の子が思う格好良さって周りにいる女の子に安心できる場所を与える事にあるよな、と。
たぶんヒーローの条件としてそれが抜けてると、格好良さに繋がらないような気がする。

世界の危機を救わなくても周りの女の子を救えばそれはすでにヒーローだよな。

『瑠璃城』殺人事件

『瑠璃城』殺人事件 (講談社文庫)

『瑠璃城』殺人事件 (講談社文庫)

日本の最北に建てられた「最果ての図書館」。病で余命幾許も無い君代は、司書の霧冷達と他愛のない話をしながら、そこで静かな死を待っていた。ある日、樹徒と名乗る男が現れ、君代に僕たちは生まれ変わる度にお互いを殺し合う宿命なのだという。樹徒は中世のフランスで起きた「六人の首無し騎士」の伝説を話し、生まれ変わりの連鎖を止めたいと言うが、前世の記憶のない君代は取り合わない。しかし樹徒が話したお互いを殺すための呪われた短剣に近い短剣が最果ての図書館にある事を君代は霧冷から聞いていた。舞台は13世紀の瑠璃城、ヴェルダン戦線の塹壕と次々に跳び、不可解な密室殺人、そして死体焼失の謎がちりばめられる。


トリックが読みたくて手を伸ばしたんで大満足。
物理トリックの良さは玩具としてのワクワク感だと思う。
島田荘司を次々と読み漁った中学生の頃を思い出した。
たぶん中学生や高校生ぐらいが北山作品を真っ直ぐ楽しめる年代だと思うな。
課題図書にすればいいのに。

ハローサマー、グッドバイ

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

政府高官の息子ドローヴは、夏季休暇のため港町パラークシを訪れる。ドローヴ去年の夏季休暇で知り合った少女ブラウンアイズに会うのを楽しみにしていた。しかしパラークシは自国エストとアスタとの戦争の影が落ち、町の人々と政府が主導する缶詰工場に詰める軍人たちの間にだんだんと亀裂が入り、きな臭い匂いが漂ってきていた。北の海水が干上がるために起きる粘流がパラークシに入り、二人が再び出会い愛し合う、ひと夏の物語。

出来のいい叙述トリックのミステリーを読まされた後ぐらいの驚き。最後の1ページで、そうだったのかと何度も唸ってしまった。

SFはこういう世界を見せてくれるから、やめられないな。
イデアなんてものは、いたるところに転がっているものだと思わされた。
オススメ。