太陽を曳く馬

太陽を曳く馬〈上〉

太陽を曳く馬〈上〉

太陽を曳く馬〈下〉

太陽を曳く馬〈下〉

警視庁捜査一課の刑事、合田雄一郎は、曹洞宗永劫寺サンガの僧侶、末永和哉の交通事故の過失責任を調査する事になった。合田は告訴人の弁護士久米と会い、告訴状に添付されていた永劫寺サンガの発起人である福澤彰閑が息子秋道に宛てた手紙について質問すると、福澤秋道の死刑が執行されたことを聞かされる。合田は3年前に秋道が行った殺人事件を捜査し送検していたのだ。彰閑からの手紙は絵を書くのに邪魔だから殺したとされる秋道へ宛てた感想とも思弁とも言えない奇妙な文章群だった。合田は世間一般では動機なき殺人として落着した秋道事件を回想しながら、元オウム信者であり、てんかん患者だった末永和哉を巡る〈私〉と自由な意思を探る対話と思索に自ら巻き込まれていくのだった。


久しぶりに評価なし。
読んだというか、読まされたというか。
最低でも仏教の基礎知識と道元正法眼蔵の読み込みが必要。あとマークスの山以降の高村作品(とくに晴子情歌以降は必須)。
できるならラカンのエクリや川村記念美術館にあるバーネット・ニューマンの「アンナの光」、デュシャン以降の現代美術の流れを押さえていると取っ付きやすいかも。
無手で読み出すと途中で自分の知識の無さに苛々してくること請け合い。

いやぁ、ほんと読み難かった。
でもつまらない訳じゃない。知的好奇心はガンガン刺激されるし、悶え苦しむ合田雄一郎はなかなか萌える。
ただ途中から小説ではどんどん無くなっていく。合田や福澤といった登場人物はいるけど、盤上の駒としか存在しなくなって、残るのは形而上の思弁のみ。
リア王では福澤栄の人生があったおかげで、かろうじて小説として形は残ったけど、今回はそれすらもない。
ただただ圧倒的な言葉の羅列。
羅列から何かを拾い自らの言葉に仕立てあげるか、何も拾わず自ら発する言葉に従うか。
読み手にはそれぐらいしかする事ができない。

善くも悪くも貴重な読書体験ではありました。