“文学少女”と神に臨む作家

文学少女天野遠子の卒業が近づき、心葉はたどたどしいながらもななせと二人の日々を過ごしていた。しかし、遠子の下宿先の息子桜井流人からたびたび二人の仲を邪魔される。ある日、心葉が井上ミウとして小説を書いた時の担当編集者佐々木が現れ、次の作品を書いてほしいと頼まれる。即座に断る心葉だったが、その晩、遠子が佐々木と関わっている事を知り、裏切られた忿懣を遠子にぶつける。その事を知った流人に心葉は天野遠子の存在を消すつもりなのかと詰られる。巻き込まれながら遠子の死んだ両親、編集者の文陽と結衣そして流人の母であり作家の桜井叶子のいびつな関係を知ってしまう。アンドレ・ジッドの「狭き門」を下敷きに天上を目指す作家の業と、はかないながらも刻み込む青春の影を描いた文学少女シリーズの堂々たる完結編。


ジッドの狭き門を読んだのは確か中学三年の頃。新潮文庫の夏の百冊を読み切ろうとして読んだと思う。
なぜかジェロームじゃなく、アリサに感情移入をしながら読んだ気がする。たぶんストイックなところが中学生男子には格好良かったんだろう。なんて浅はかな思春期。
面白かった記憶はあるが、再読しようとは思わなかった。いくらアリサが格好は良くてもあのラストはやはり重苦しい。
というわけで狭き門を下敷きに完結編を書くことがわかってから、ラストはハッピーエンドにはならないだろうと予想していた。このシリーズは心葉の三角関係とディスコミニケーションの物語だと思っていたからだ。
まさか作家の業を描いてくるとは思いもしなかった。天才と孤独の物語。そうか、狭き門をその下敷きにするとは凄いなと驚いた。頭に浮かんだのは羽海野チカ3月のライオンだった。
心葉と3月のライオンの主人公である零がダブった。でも遠子は3月のライオンの中にいない。
孤独であるが故に全てを許すという存在は、現実では禁じ手だろう。
だからこそ、妖怪なのかと解釈してみた。
凡人が天才を解釈するための妖怪「文学少女」。
個人的には腑に落ちるんだけどなぁ。