めぐみ−引き裂かれた家族の30年

本作は理不尽という化け物−元凶である北朝鮮を始めとした日本やマスコミ、それに家族会−に翻弄される横田夫妻の闘いを記録したドキュメンタリであり、きっと届くと信じて送り続けている愛娘に宛てた手紙でもある。

夫人の早紀江さんが聖書の一節で自殺を踏み留まり、娘に起こった出来事を神の視点で納得しようとする一方、夫の滋さんがもし神がいるなら、娘は私達にとって必要がなかったという事になってしまう、と語るシーンが印象深い。

神の利便性と排他性、理性的であることの諦念と揺らぎ。

映画は、北が拉致を認めたあと、横田夫妻の講演会で、日本も40年前に同じ事をしてたじゃないか、と泣き出すおそらく在日だろう女性を映す。
5人の拉致被害者が帰国した後、拉致も大事だが核も大事なんだと家族会に訴える小泉純一郎を映す。
北に残された者を思うと多くは語れないんだと、北から帰国した息子の言葉を伝える父親を映す。

横田夫妻は強い人達だ。だが、闘う相手も、決して譲らないものを持つ強い人達である事にかわりはない。

手紙は未だ届かない。

だが不毛だと侮るなかれ、夫妻は映画の中では、 実に楽しそうに笑っているのだ。
手紙が届くのがもう少しだとわかってるかのように。