贄の夜会

贄の夜会

贄の夜会

飲み込まれた。

気がつくと、すでに読み終えていた。

最高級のエンタメ小説。
麻薬のような読書体験とは、この小説を雑誌連載で読んでいた人のためにあるのではないか。狂おしいほど次号が待ち遠しくて堪らなかったはずだ。
幸いというか、残念ながらというか一気に読み通せることが出来た。仕事の移動時に読み始めたため、数時間の狂おしい体験は味わえたけど。

叩きあげの刑事、猟奇的な殺人鬼、凄腕のスナイパー、それぞれを主人公とした作品は数あれど、三者が一堂に会す物語は、本作ぐらいではなかろうか。
それは詰め込み過ぎだろうと懸念を覚えた人は、 1章を読み終えた時に、これでもまだ足りないのか、と驚嘆するだろう。

そして1章ごとに物語の世界に引きずり込まれ、振り回され、結末の見えない不安とともに、もっと大風呂敷を広げてくれという相反する酩酊感に浸れるのだ。

そして最終章。
散らばったパズルは回収され、苦い達成感と心地のよい切なさを残して、物語は幕を降ろす。

素晴らしいエンタメ小説だが、気になるところもある。

以下ネタバレ


猟奇事件と警察の内部腐敗の繋がりは、やや唐突な気もする。ミッシングリンク的な見方をすれば、頷けないこともないが、ただ犯人像の細かい描写とそれに至る伏線がもう少しあれば、後半に起きる心理学者への執着とか、いらない子扱いになりがちな心理学者の物語への必然性が読めたような気もする。
そうなると、過去話に筆を割かなければならないからスピード感も減るし、浪花節的な要素も増えてしまうかも。痛し痒しといったところか。