様々なる祖型 at 国立国際美術館

wood-village2007-05-29


“完璧な黒”というのが世界に存在するのかと問われたならば、それは杉本博司の写真の中にある、そう答えても構わない。

モノクロームのマイスター、杉本博司の今回の展示は「建築」と「観念の形」、「肖像写真」の12点。
六本木ヒルズで昨年行われた回顧展に比べれば、確かに12点という数は少ないかもしれないし、今年春の「直島スタンダード2」のような、島の岸壁に水平線に合わせて「海景」を置くといった茶目っ気もない。

しかし、杉本の近年のシリーズをまとめただけあって、余剰をすべて切り落とした、ただそこにあるという存在感を十二分に満喫できる展覧会になっている。
また学芸員の方々の見事な仕事ぶりも伺えて、実に贅沢な空間と、至福の時間に酔いしれる事ができた。

数理模型に、ピンボケの現代建築。
解説無しに意味を求めると、袋小路にはまる作品ばかりだ。
しかし、あえて意味を求めずに作品と対峙するのがここは正解だ。

数理模型の陰影から浮かび上がる繊細なグラデーションから、いくつもの白と黒が重なりあい、せめぎあう瞬間が見てとれる。
ピントのあっていない建築物を、じっと見つめると、淡く霞んだ写真から、ピントごときでは、決してゆらがない本物の形が迫ってくる。

白と黒しかない世界で、様々な形が現れ消えていく。

カロタイプの発明家タルボットは世界初の写真集に、自負と自嘲を交えながら、モノクロームの世界を『Pencil of Nature(自然の鉛筆)』と付けた。

杉本博司の自然の鉛筆は、さらなる根源に向かい、自然とは何かと逆に問いかける。自負も自嘲も蹴散らしながら。