赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

何故か、高村薫の「晴子情歌」を、読んでいる最中に思い出していた。
大正から始まる近現代史を、主人公が息子に宛てた手紙という、書簡形式で紡がれる大河小説だ。
断っておくが、本作品とは似ても似つかない作品だ。

正直、高村作品と比較するならプロットで言えば「新リア王」の方が近いし、製鉄という括りなら「照柿」が真っ先に出てくる。

赤朽葉万葉と福澤晴子が歴史に翻弄されながら、時には押し殺し、時には身をかわして、したたかに生き抜く姿が重なるのか。

いや。

そんな女性の年代記としての考察なんかこの作品にとって、全く意味はない。
これは戦後史という壮大なガジェットを使った、ただのラブストーリーなのだから。

じゃあ、なぜ高村薫なのか。

だって、高村薫もラブストーリーを書いてるんだもの。
なんというか、小説との戦い型が決定的に違う気がする。

高村は相撲で、桜庭はプロレス。

一瞬の鬩ぎあいか、長丁場の凌ぎあいか。

伝統芸に陥りやすい大河小説を、現代少女による語りという設定で、軽やかに演出し、なおかつミステリの要素も含めた贅沢な作品。

上下段組とはいえ、300ページそこらで纏めきるとは、恐るべし。

高村薫NHKの討論番組に出てるぐらいなら桜庭一樹を読めばいいのに。