刻まれない明日

刻まれない明日

刻まれない明日

十年前に3095人を飲み込み消えた開発保留地区がある町。一人だけ消え残った沙弓はあの事件から十年振りに町を訪れ、国土保全省の主任歩行技師の青年と出会う。彼は歩く事により道という概念を固定化し、道を守っているのだと言う。沙弓は彼に付き添い一ヶ月間、道を歩く事を決める「歩く人」
図書館司書の藤森さんは、館長から西山係長の手伝いを頼まれる。彼は担当者さんと呼ばれ、利用者の家に個別で訪問していた。彼の仕事は十年前に開発保留地区にあった第五分館で、なぜか今も続いている消えた人達の貸し出し状況を事件の関係者に伝える事だった「第五分館だより」
俊の父親はあの事件で消えた。その頃の事はまったく覚えていない俊だが、なぜか開発保留地区にあった鐘がずっと聞こえていた。しかしその鐘の音が今年に入って聞こえなくなった。ひょんな事から知り合った居留地の異邦の少女、鈴と共に鐘の音を取り戻そうと俊は奔走する「隔ての鐘」
坂口さんはマンションの屋上で、右手だけで器用に紙ひこうきを折って飛ばす女性、持田さんと出会う。彼女は左手が動かせないのだ。バスの運転士だった彼女はあの事件の日、12番乗り場から出発した同じ運転士である夫のバスを見送った。あれから十年、12番乗り場からバスは一度も出る事はなくなった。そんな持田さんを励ましたい坂口さんだが、坂口さんにも励まさせないある理由があった「紙ひこうき」
居留地にある青い蝶の絵の前で奏琴を弾く宏至。バイト仲間の西山さんの知り合いでラジオ局のDJ沙弓から今年になってから町中に描かれていた青い蝶が次々に消えていっていると聞く「飛蝶」
開発保留地区の地下にある気化思念貯蔵プラント。十年前、供給管理公社の分局職員、黒田さんは気化思念の曝露を防ぐ為に地下に降り、被害を三千人弱に止めるが、後遺症を背負ってしまう「光のしるべ」
それからの3年後を描く「つながる道」。自作「失われた町」をモチーフに残された人々を描く連作長編。


作者得意のSF(少し不思議)設定をちりばめ、失うという事とは何かを優しい視線で描くんだけど、ちょっと優しすぎるか。
鐘職人のような十年前の事件を早く忘れたがっている人達や事件を隠す役所や組織に反抗にする人達の話も読んでみたかったな。
受け入れるが前提なのは、なんか馴染めないんだよな。