わたしを離さないで

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

昨日読んだ小説が突出してただけに、真逆の肌触りをした小説を読もうとカズオ・イシグロを選んだ。
なんだ、この超絶技巧。

読者の読むスピードさえ操る文章なんか書かれると平伏するしかない。

ヘールシャムと呼ばれている児童福祉施設に似た施設にいた頃から今までの主人公の回想録といった話なんだけど、差し挟まれるエピソードやセンテンスが、不穏というか不安。何がどうなってるのか、読む方も想像しながら追うんだけど、一文一文が練りに練られていて、読者が不安の元に想像が追い付いた瞬間、次の文章でそれが明かされるといったような感じ。

小説の凄さみたいなものを、まさに見せ付けられるんだけど、内容はちょっと古臭い。
理想主義と現実主義の対立を妄想で俯瞰しようという試みには、大いに触発されるところはあるんだけど、今更なぁと思わないでもない。