狼と香辛料Ⅳ
- 作者: 支倉凍砂,文倉十
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2007/02/10
- メディア: ペーパーバック
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端正な会話劇。
とにかくロレンスとホロの関係が、気持ちいいというか、こそばゆいというか。
こういう二人の距離間(レンジ)に気を使った作品は大好きで、とくに会話の相手の気持ちが掴めそうで掴めないところなんて、もろ好み。
主人公二人の会話や商談の駆け引きは、舞台演劇でも通じるような距離間がある。読んでる最中、古城十忍や松田正隆の芝居を思い出したりした。
この二人の名前を出してしまうと、「静かな演劇」じみた話と勘違いしてしまうかもしれないが、決してそうではなく、会話に仕掛けられた言葉が多層的な意味をもってしまい、状況が変化していく、そんな関係性の描き方が似ているということ(しかし物語に変成はない)。ロレンスとホロの関係だけに特化してみるなら、キャラメルボックスの真柴あずきの作品に近いものがあり、結構ドタバタとして楽しい。
三人称一視点の小説では、芝居ほど多層的な会話はないにしても、もどかしさの積み上げは、実に小説らしい言葉の選び方をしていて、読んでいてうれしくなる。
ロレンスの思考−損得勘定と将来への投資、ホロの気性−賢狼の誇りと欲望に忠実という線引きが、ご都合主義的な関係を排して、信頼しつつも油断ならない、そんな緊張感のある関係を引き出しているんだろう。
まあ、だからこそなんだけど、3巻のラブコメ展開や今回のエピローグの会話は、立場的に他者の介在をこばむ二人の、淋しさと弱さが、個々の価値観を上回り、絶対的な信頼への憧れや普遍的な関係への要求が表面化して、あんなこそばゆい会話が出てくる。
ああ、かわいいなぁ、もう。