出星前夜

出星前夜

出星前夜

寛永十四年。イスパニア人修道士に医学を学んだ長崎の医師外崎恵舟は、島原半島の南目の庄屋であり鬼塚監物として朝鮮出兵時に名を馳せた甚右衛門に請われ、蔓延する疫病の治療に向かうが、逆に代官所から必要なしと長崎に追い返される。島原の藩主松倉重政が、何事にも耐える事が神の教えだと信じるキリシタンの住民達に付け込んだ苛政の為だった。寿安の異名を持ちオランダ人の血を引く矢矩鍬之介ら南目の子供達は監物を始めとする耐え忍ぶ大人達に業を煮やし取り壊された教会跡に立て篭もる。折しも代官所が火事になり、その失火を寿安達になすりつけようとする役人達と寿安達が争い死人がでる。これをきっかけに南目を含む島原の民衆から不穏な動きが出るのを押さえるため、監物と恵舟は長崎代官末次平蔵に事態の収拾を頼み、松倉の家老田中宗夫により一旦事態は収まるかにみえたが、もう一人の家老岡崎新兵衛との確執から島原の住民はさらに苛酷な年貢を背負わされる事になる。陰暦十二月。二十年を費やした苛政はとうとう民衆を蜂起させた。


耽読。
島原の乱の原因をキリシタンという一元化した理屈だけでなく、家光による幕藩体制の綻びにあるとして、稠密と言える程の考証と骨太な文章で寛永十四年を語る。
蜂起の頭領益田四郎はあえて脇に寄せ、大阪で名医と呼ばれるようになる北山寿安と島原の乱で大人として戦った鬼塚監物を中心に描いた点が素晴らしい。
状況を見据えていた監物が、幕藩体制というシステムに翻弄され破滅に導かれていく姿と子供の視点でしかなかった寿安が挫折をしながらやがて成長していく姿が何重にも重なり、クライマックスまでグイグイと読まされる。
時代小説でない骨太な歴史小説が読みたいなら迷わず読む事をおすすめする。